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新世代パドル?スイムブレースの活用方法とその効果

この2、3年ほどスイマーの間で、水泳用の練習用具として人気を高めているSWIMBRACE(以下:スイムブレース)という水泳練習用具をご存知でしょうか?

着用することで筋活動にスイッチが入り、手をパドルのようにして固くすることで泳ぎの改善ができると言われ、実際に使ってみると驚くほどフォームが”自然に”変わっていくという実際の口コミで人気の広がったアイテムです。

「筋活動にスイッチが入るとは、どういう意味?」
「これはそもそもパドルと言えるの?」
「指にはめるだけで本当に効果があるの?」

など、様々な疑問の声がありましたので、「スイムブレースとは何か?」をまとめてみたいと思います。

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今回の紹介記事の構成は下記のとおりです。

  • 結論:スイムブレースとは何か
  • 理由:どのようにしてそのメリットが生じているのか
  • 発展:実際にどのように使うのか
  • まとめ:スイムブレースの魅力確認

それでは、一つずつ順を追ってみていきましょう。

このスイムブレースとは何か

スイムブレースはとても珍しいコンセプトです。ゴールを分かりやすく説明するために最初にスイムブレースの結論から確認してみましょう。

スイムブレースをつけるメリットは?
・水をつかむ感覚が向上する
・水泳に必要なフォームを感覚的に理解し、自然に獲得することができるように促す。
・ハイエルボーやストレートアームといったトップスイマーが使う技術が獲得できるように促す。

つまり、今まで使われている通常の板状パドルは自分で意識してフォームを改善する機能を持つが、一方でスイムブレースは着用することで水泳に必要な筋活動を自然に呼び起こし、理想のフォームへと改善を促していくパドルです。
この機能は実際に使った人たちから高い支持される一方で、まだ未知の領域で新しいコンセプトに対して理解を深めたいという声もあります。

確かに今まで水泳の練習で使われるスイムパドルというと、手やその周辺の面積を広げることによって水との接触面を増やして推進力を得る目的のパドル(ストロークメーカー等)や、部分的な抵抗をかける目的のパドル(フィンガーパドルやテクニックパドル)など、直接的で分かりやすいコンセプトが多くありました。
その一方でスイムブレースは筋活動で理想のフォームへと自然に導くというパドルとして前例のないアプローチです。
これはただ珍しいアプローチというだけでなく、筋活動という日常生活で馴染みのない言葉からは効果が推測しづらく、疑問点が発生してしまうのです。

開発者である辻端大輔氏(以下辻端さん)からZOOMを通して、筑波大学との研究結果を交えた解説をして頂きましたので、下記にその内容を解説していきます。

ZOOMの様子:(左)スイムブレース開発者 辻端大輔氏、(中央)スイムブレース開発会社の代表 小林洋一氏、(右)この記事を書いているMIHORO 今村裕司

スイムブレース:水泳フォーム改善への新アプローチ

お話をお伺いする中で、このスイムブレース開発の根本的な部分は競泳選手のトレーナーであると同時に、理学療法士である辻端さんだからこそできたアプローチが根底にあったと強く感じさせられました。その前提を確認するために、まずは理学療法士について簡単にまとめます。

理学療法士とは:スポーツパフォーマンス向上のキープレイヤー

理学療法士は、身体機能の回復や維持をサポートする専門家です。運動療法や物理的手段を駆使して、筋力向上、関節可動域の拡大、痛みの軽減などを目指します。怪我や疾患からの回復を目指す人々をサポートし、スポーツ選手の場合は、パフォーマンス向上、怪我の予防、迅速なリハビリを通じて最高の状態で競技に臨めるよう助けます。理学療法士の知識と技術は、選手が理想の身体状態を維持し、技術を磨く上で欠かせないものです。

つまり、理学療法士の役割はただ怪我を治療するだけでなく、選手一人ひとりの身体の特性を理解し、それに基づいた個別のトレーニングやアドバイスを提供することで、選手が自身の潜在能力を最大限に引き出せるようにすることにあります。スイムブレースの開発においても、このような専門知識が活かされ、筋肉の動きを最適化し、より効率的で効果的な泳ぎへと導くことを意識されています。

今までのスイミングパドルでは、着用して泳ぎながら水の抵抗や入水の感覚で最適解を見つけていくアプローチだったのに対して、スイムブレースは筋活動(筋肉の動き、刺激、バランス、筋肉連動)からのアプローチで開発されているのには、理学療法士だからこその視点があると言えます。

手から肘までの一体化するメカニズム:スイムブレースによるフォーム改善

これは実際にスイムブレースを持っている人は、着用して試してみてください。
スイムブレースを着用した状態と未着用の状態では、スイムブレースの着用時は手首が上下に動きにくくなります。
これは多くの人で比較しても同様のデータと傾向が出ています。

※スイムブレース様からご提供の比較画像

スイムブレースを落とさないように力を入れて意識することで、手首が固定される事が研究結果からも現れています。

「手首を固定して泳ごう」という考え方ではなく、スイムブレースを離さないように指を硬く固定する(意識をする)ことで、手首が固定され、手から肘が一体化された状態へと導くことが自然と行われるため、ストロークの改善をしているのです。

スイムブレースとストローク:筋活動への影響

次に筋活動への影響についてです。まずは下記の表を確認してみましょう。

スイムブレースによる筋活動の実態

※スイムブレースご提供の泳ぎの際の筋放電量の比較画像

この表は通常時とスイムブレース着用時の筋活動を数値化したデータです。プル局面において前腕、上腕、胸、腹筋の筋活動が高まるという結果が示されています。筋活動自体は目に見えませんが、筋肉がどれぐらい働いているのかを計測するために、身体のそれぞれの部位に計測機を貼り、筋放電量(筋放電量が高いほど筋活動が活発である)を計測して可視化されています。この計測は筑波大学との共同研究によって行われていました。

指の筋線維は前腕の筋肉と直接繋がっており、スイムブレース着用時に泳いだ際にグライドの場面からその数値が大きく跳ね上がります。プルの局面になるとその筋活動は前腕だけでなく、上腕、胸の筋活動にまで追加の影響を及ぼしているのが数値を見て分かります。

スイムブレースを着用することによって前腕の筋活動が刺激され、身体全体に至るまでその筋活動が連携している状態です。

では、この筋活動の変化は泳ぎにどのように影響をしているのでしょうか?

スイムブレースと水感:水を掴む感覚とは?

これは筋放電量ではなく、あらゆる競技レベルのユーザーからアンケートをして統計を取った、感覚に対するのデータです。

※スイムブレース様からご提供の比較画像

上記の表に書いてあるように、あらゆる競技レベルのユーザー60名にアンケートをした結果です。競技レベルにあまり依存することなく、色々な泳者がスイムブレースの着用時に関節角度や水の抵抗に変化を感じる人が多く、キャッチやプルの局面で変化を実感する人が多かった事が分かります。

この変化は一般スイマーだけでなく、日本代表クラスの選手からそのコーチ、小学生などのスイマーに至るまでとても幅広いスイマーで感じられたようです。

またこの結果から、前出の筋放電量が高かった人は「水を掴めている感覚がある人が多い傾向にある」との事でした。

スイムブレースを付けると水を掴む感覚が向上する。というのは、実際に体の筋活動全体に刺激が入っているという実態から、実際に水を掴めていることからきているものといえます。

スイムブレースはどのように使うのか

指導が入りやすい(改善に繋がりやすい)

従来の水泳指導では、選手が泳ぐ瞬間に「ハイエルボー」などの技術を意識して実行するのが難しいとされてきました。

泳いでいる最中にハイエルボーなどの意識をして泳ぐことは難しく、変に意識して形を真似るだけでは誤ったフォームに繋がり、本質的な改善に繋がらないことがあります。

難しいのは「どの部分の筋肉に力を入れていいのかわからない。」「どの瞬間に対して意識を強めるのが良いのか分からない」という陸上の指導との差、感覚的な難しさの一面があったように思われます。

そのため、「スイムブレースを落とさないように意識する」という指導こそが筋活動からのアプローチになっており、指導が伝わりやすくなるのです。
また、上記アンケ―ト結果からも様々な競技レベルで効果を実感をしやすく、指導を促すのに理想的なアイテムといえるのです。

ドリル練習(反復復習)によい

既存のパドルでは、ストロークメーカーを始めとする負荷を高めるパドルがあります。これらのパドルは水中で手や腕にかかる負荷を高めることでパワー練習をすると同時に、高負荷状態でどのような泳ぎをするのかという改善を目指していくものでした。

それらの既存パドルは泳ぎの改善という点で優れた練習用具といえますが、スイムブレースでは繰り返しつける状態を維持させ、その後に外した状態でも使うことによって筋肉や身体の正しい使い方を学ぶドリル練習に優れていると言えます。

既存のプール施設で使いやすい

この項目はスイムブレース本来の機能ではありませんが、他のパドルと比べてもとても有用な活用方法として紹介します。

安全性の考慮の一面から、通常のスイミングパドルは公営プールなどでは使えない場所が多くあります。
パドルを持った状態で接触をしてしまった人ならご存知のように、パドルの規制は安全性の観点からもやむを得ない制限であるとも言えます。
ただ、このスイムブレースは指先から外に出ない構造のために、使用時の安全性は非常に高くあり、公営施設でも使用を認められる実例が多くあります。
ただし、これはあくまでも”安全面による可能性の観点から使いやすい”というだけです。アイテム活用の可否は施設に事前にルール確認を必ずしてください。

まとめ

スイムブレースが効果的なタイミング

キャッチからプルの局面
→肘が立つ。(自然なハイエルボーを促す)
→手首が固定され、手から肘までを一体化したストロークを促する。
→水感が向上する。(筋活動が刺激されて全身で強いプルが出来る。)

主に作用する場所

キャッチからプルの局面において、前腕、上腕、胸、体幹に筋活動が入り作用する。

リカバリーの局面において、前腕、上腕の筋活動が刺激された。(背中でも筋活動が活発化している傾向がみられた)

着用する場所

はめる場所によって効きやすくなる箇所があるのは確かではあるようですが、上記の泳ぎの効果を狙うものとして推奨するのは中指と薬指の間にUの字型が推奨の位置になります。ただ、これは手の大きさにも依存するため、下記の写真のように様々な場所ではめやすい場所を選んでもらえると良いようです。


フィット感、指の幅、個人的な感覚によって着用する場所を変えたり、上記のように反対向きにして使用するのも、スイムブレースの効果を感じられるとの事でした。

また、2024年2月22日よりスモールサイズとジュニアサイズという小さなタイプも新たに追加された為、ジュニアスイマーにはそちらのサイズもお勧めです。

これはパドルと言えるのか?

辻端さんからpaddleの定義をお伺いして「これは確かに」と思わされたのですが、Paddle本来の意味を調べてみるとpaddleには「水をかく」や、「かいで漕ぐ」という意味がありました。

「パドル=板状のもの」という認識だったのですが、これは後につけられた認識だと気づかされました。今までののような板状のスイムパドルというアプローチとは違うものの、人が手でかくことで推進力を得る効果があるという研究結果からも、パドルの一種として捉えていいのではないでしょうか。

さて、スイムブレースについての解説は以上です。

スイムブレースは今までの概念からは大きく外れていたことから、私たちも最初その効果を理解しきれなかったぐらいで、その魅力が分かりにくいのは確かです。

ただ、そこには理学療法の世界で蓄積された知見からのアプローチで作られており、その伝わりにくいメリットに対して適切なデータ計測をし、適切な仮説検証をされているのが印象的でした。

多くの指導者から支持され、指導の場でも実際に愛されているアイテムだけはあります。もし興味を持っていただいた方は、下記で販売をしていますので、もしよろしければご検討ください。

スイムブレース【公式サイト】

水泳専門店MIHORO【公式】

2月22日には新色が発売される予定です。新色もぜひ楽しみにしてください。

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