![]() | 水着業界異端のブランドTYR 熱狂的ファンを生み続ける魅力を追う。 |
― 皆さんは TYR というとどんなイメージを思い浮かべますか?他社とは決して迎合しない独自の魅力は明らかに異彩を放っており、その魅力に惹かれる人も非常に多いブランドです。その魅力はどのように出来あがって来たのか、その心髄に迫ります。
今回インタビューをさせて頂くのはそんな TYR ブランドを 1991 年から日本展開をしている会社ライトアベイルの代表取締役 秋間 昭雄さん、そして立ち上げメンバーの岡田 泰さんです。―
既存の概念を壊し続けた。
―立ち上げ当初の事を教えて下さい。―
「 TYR というブランドは 1985 年にアメリカでたちあがったブランド。その当時は競泳水着というと無地物ばかりで、それが当たり前だった。そんな環境の中で、”もっと水泳を楽しくするような柄の水着が欲しい。””届けたい”という思いを元に当時として異例な程に派手で革新的な水着を発売していました。今でこそ競泳水着に柄があるのはそれほど異例ではないですが、当時としては凄く革新的な事でした。例えばカタログひとつを見ても斬新で、今でも通用する魅力的なデザインが多いと感じます。カタログの表現も凄く面白いものが多いのです。」
そんな社長は日本発売開始した当時の貴重なカタログを見せてくれた。
![]() | ![]() |
日本に来た1991年当時のカタログ(左)と1992年のカタログ(右)。サバンナで水着撮影をするなど、既存の発想ではありえないような魅力的な表現が数多くみられた。 | 1991年当時のカタログの1ページ。デザインは今尚魅力的だ。こちらは砂漠での撮影が行われている。 |
― TYR だからこそ提供できる、他社にはない価値とは何ですか?―
「正直、他社は見ないようにしています。真似をするしない以前に、見てしまうと頭の中に残ってしまう。他がどうするのか。ではなくて、 TYR がどうしたいか、どうあるべきかを大事にしたい。それは万人受けはしないかもしれないけれど、 TYR ということを守り続けます。大手ブランドと同じ事をしてしまったら TYR というブランドは死んでしまう。 1991 年に立ち上げられたときからその思いでブランドが育ってきて、今でもその思いは変わっていません。」
― TYR のブランドを守っていく上で大切しているものは何ですか―
「 TYR の日本市場における役割がふたつあります。」
・無地の市場に水泳が楽しくなるような柄モノを届ける。
・最終的にはオーダーメイドを実現する。
―この二つのルールが TYR の中に根付いている。
先ずこのふたつのルールの中で印象的だった話が柄についてのこだわりだ。
それは今でも多くの水着で続いている日本製水着という事。
日本人の考える品質、そして体型にフィットさせる為に 1991 年の発売当初から殆どを日本国内生産して販売していた。非常に大きなボリュームだけに、そう簡単にできる事では無い。
日本のプールは衛生面の為に塩素が多く入っている場所がある。そんな時に当時は色落ちがしやすかった。だからこそ、何が悪いのか、何を改善すればいいのか。その理由や解決策を必死に調べ、考え続けたのだそうだ。―
TYR の魅力を日本品質で再現する。
アメリカで培われた自由な発想とTYRデザインは、日本に来た時にライトアベイルが手掛ける事によって、品質を高いものへと引き上げられたものだと、取材を続けるにつれて感じさせられた。
「縫い糸にかなり工夫をしました。ウーリー糸は凄く柔らかいけれど、何かあった時にひっかけやすい糸だったので、テトロン糸に変えた。」「 TYR では紐を丸紐ではなく、平紐にこだわっている。平紐にする事によって結んだ後に解けない。腰回りにごろつき感が出ない。水中抵抗にもならない。」その他にも色抜けについて、裏地について、生地のこだわりなど、数々のこだわりが秋間さんの口から次々と聞かれました。
そしてふたつ目のルール
・最終的にはオーダーメイドを実現する。
「 TYR が日本発売した時に日本では次々とフィットネスクラブが出来あがっていく、人気全盛期でした。その事もあって、フィットネス水着として TYR 水着の人気が高まって行った。ただ、フィットネスクラブと言うと色んな泳ぎのスタイルがあり、体型の方がいらっしゃる。 TYR を着たいと思ってくれる人には出来る限り届けたい。そんな思いからひとつの柄でワンピース、セパレーツ、オールインワン、メンズロング、メンズショート等の非常に幅広い展開を行っています。
お客さんから”この柄でこの形が無いから我慢する。”そう思わせたくないので、例え大変であってもひとつの柄で様々な形の水着を作っています。」
![]() | ![]() |
これもまた当時にとって革新的だったリバーシブルタイプの水着。TYRは裏表はただの切替ではなく、それぞれライフスタイルをイメージして作っている。リバーシブルを逆立ちで表現する姿にもシンプルで高いメッセージ性を感じる。 | 一つの柄でこれだけ広いラインナップは通常は行えない。だがTYRはそれを顧客価値にとって大事なことだと続けている。スポーツビキニタイプ、フロントジップと言った今のスタンダードになるものを1991年から展開している。 |
お客さまに向き合ったオーダーメイドの考え方
―TYR ではオーダーメイドの考え方があるのに受注システムなどはあまり大々的に広報されていないようですが―
営業マン一人一人が対応しているので大々的にできないのはありますが、システム化をしてしまうとそれは既製品と何が違うのかという疑問にあたってしまいます。ユーザーさんが言う「ここはこんな作りで、ただこれはこうしたいんだよね」という生の意見が聞けなくなってしまいます。真っ白な状態からお客さまがどんなものを求めているのかを知りたい。
例えばショートボックスひとつとっても、「この柄でこの内容は凄く良いんだけれど、走る事もあるからここの角度を僅かにあげて欲しい。」そんな要望をに応える事が出来るかもしれない。
オーダーメイドは柄から入る事もあれば、形から入る事もある。それは人によって違うんです。
GUARD というブランドにおいてもライフセーバー約 30 チームに関わらせて貰っています。
時に一からデザインする事もありました。
―お客さまの対応の話が出たところで2つ質問があります。 TYR の派手なジュニア水着は日本で発売しないのですか?というご質問とアメリカで発売されているタイバック(下記写真参照)と言われる後ろで結ぶ水着は魅力的ですが、こちらも販売はしないのですかというご質問を頂いています。―

「実はどちらも日本で販売しています。タイバックの水着については日本で発売をしてみたのですが、日本で認知が広がらず日本での販売を今は断念しています。同様にしてジュニアの派手な水着についても日本で販売しているのですが、私たちはあくまでもメーカーであるために、直接販売する力はありません。その結果皆さんのお手元に届く前に生産中止になってしまう事があります。もしあの形が欲しい。色んな方がそれが欲しいと言って頂けるのなら、再度チャレンジする事はあるかもしれません。お客さまと強く繋がったお店とお客さまから「TYRのこれが欲しい!」と求めて貰う事で、そのお店の魅力に合った水着、ジュニア水着も、マタニティ水着を作ったりお届けする事は出来ます。」
以前は特定の手術個所を隠すためのオーダーメイドや乳がんの方用のオーダーメイド等も作っていたといいます。今はそういった事が出来なくなっていますが、色んなお客さまの声が集まって、こんな水着を作りたいという思いを持っていればもしかしたら TYR さんなら実現してくれるかもしれません。
ファン、マニアを生みだすつながり
「あの選手が TYR の水着、ウエアを着ていましたね。」と私が言うと大体「あれは営業マンのつながりで偶然契約させて貰った。」「営業マンとあの人が直接相談してうちが作らせてもらった」…というような返事が何度も聞かれた。「うちはそんな大きな会社じゃないから営業マン一人一人が活躍してくれている。」という前置きを言っていたが、それ以前に私はいちメーカーがいちユーザーと深く関わっている事に驚いた。メーカーとユーザーの距離が非常に近いのだ。
近いからこそ紹介し、
数多くのライフセーバー、トライアスロンチームと深く繋がっている。
現役選手に限らず、プロを目指す選手、そして現役を引退した選手も TYR を愛用する人が多い。 そんな選手との契約や提供について聞いてみた。
「プロを目指す際にTYRの水着を着ていた子も、いざプロになって他の大手メーカーと契約する選手もいる。それはとても寂しい事だけれど、今の自分たちにプロになった選手を本格的に応援してあげる予算が無い。自分が選手でもそうすると思うから、他のメーカーに行く事はそれで仕方の無いことだと思う。だからそういった出て行った選手も応援したいんです。また TYR を好きでいてくれたらいつか戻ってきてくれればいい。」
非常に熱く語ってくれる代表の秋間さんや岡田さんは取材中、昔のカタログを広げながらうなり、熱く語る姿が何度も見られました。
「ひとりでも TYR を着ている人を見かけたら「もう最高!」「やってよかったー!」って感じる。」
「この時代に水着のカタログで砂漠やサバンナで撮影するなんて。非常識で凄く面白い。」
「多くの人に TYR を知って貰う事は大変、でも楽しい。それを両方味わう」
今回のインタビューの節々にそんな言葉をあげ、熱い感情が感じられた。このお二人は本当に TYR というブランドを好きであり、愛しているのだと感じた。
このTYRというブランドを好きなのは決してこの二人だけでは無い。お客さんと深く繋がっている他の営業マンも、そして TYR を愛用している数々の選手やユーザーも全て同じように TYR の熱狂的なファンなのだと感じた。
私も TYR ブランドの商品を初めて紹介された時は、その魅力を感じて直ぐに取り扱いをしていました。当時でもこのブランドを広げたいという思いでやっていたのですが、このインタビューの後、 TYR のファンになる自分に気づかされました。
とても魅力的で熱い思いを持ったブランドです。
この記事を読んでくれた皆さんにとってTYRのファン、TYRマニアへの第一歩になりましたら光栄です。

お忙しい所、長きにわたるインタビューに快くご協力頂きありがとうございました。