アスリート・競泳選手

【インタビュー】日本が誇るスポーツブランド ミズノ・ものづくりの礎とは

日本が誇る総合スポーツブランド ミズノ
ものづくりの礎になるもの。

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様々な陸上競技からウィンタースポーツ、格闘技、球技、そしてライフスタイルに至るまで、その幅の広さは随一と言えます。
高速競泳水着業界では、数多くの高速水着が存在する中で近年の日本における全国大会の場で着用率が過半数に迫る程の人気を誇るミズノの高速水着。聞けば聞くほどミズノの真摯なものづくりへの姿勢を再認識させられます。

そんなミズノの競泳水着(コンペ)がどのように開発されているのかに迫るべく、やってきました。

ミズノ本社:大阪南港にそびえたつ自社ビル

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ここがミズノ本社のある港近く、ミズノクリスタビルと名付けられた高いビルからは海遊館が見えます。
駐車場にミズノブルーに染められたミズノカーを眺めながらそのビルに入った1階は展示ルームがあります。
ミズノさんには社会見学として学生たちが来社する事もあるようで、とても魅力的な展示が印象的です。

さて、今回お話をお伺いするのは
グローバルアパレルプロダクト本部/企画・マーケティング部/競技・スイムアパレル企画課/吉井宏見さんです。

―「随分長い部署の名前ですが、この部署ではどのようなお仕事をされているのでしょうか。」―

企画・マーケティング部では全競技のアパレル及び、ライフスタイルアパレルの企画とマーケティングを担当し、
競技・スイムアパレル企画課ではゴルフ、ウインター、野球を除く競技のアパレルの企画とマーケティングを担当しています。
その課の中で私は今回取材を頂いている水着をはじめとして、体操、そしてウェイトリフティングなどといった身体の伸縮にフィットさせるようなツーウェイ素材を使うアパレルの担当をしています。

―「なるほど、身体にフィットするウェアという切り口での部署とは珍しいですね。ミズノさんは総合スポーツブランドとして様々なスポーツを手掛けていらっしゃいますが、他のスポーツと吉井さんの手掛ける部署のウェアで大事にされることはなんでしょうか?」 ―

ツーウェイタイプの生地を使うウェアはどれだけ身体にフィットしても、動きにストレスを感じないかという事が大事です。そして時には身体の動きをサポートする機能も求められます。例えばウェイトリフティングと競泳では、同じツーウェイ素材という事でも体格は違いますし、選手が求める動きも全く別物、競技時間も違います。その他にも体操だと、今度はツーウェイだけれど華やかさも大事になります。
だからこそカッティングは全く違った物になりますし、選手が求める伸縮性も全く違ってきます。それぞれのスポーツにおいて選手が求める事をそれぞれ正しく理解していく事が大事です。

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以上は総合スポーツブランドを誇るラインナップ
ミズノホームページより)

二人三脚で挑む。チームを入れ替えても挑み続ける開発現場

―「開発にあたってどのような声を集めて、どんな開発のフックにされますか?」―

私たちはコーチや選手の声を聞くことから開発を進めます。

―「選手との開発を進める話はよく聞きますが、コーチと開発を進めるのは珍しい気がします。」―

コーチは、選手の事を分かっていて、その選手をより上に導く道の先を見ています。選手がこれからどのようにトレーニングをし、どこが強く、どこが弱いか。どのようにすればより速く泳げるようになるのかという事を考えているのです。普段どんなトレーニングをしているか、どんな事を強化したいのか。そんなコーチの声を参考にすることはとても大事であり、それが結果的に選手の為になる事が多いのです。

―「選手自身が求めている物を大事にしつつ、それより上を目指す為にもコーチとの連携という事ですね。その声は具体的にどのように開発の現場に落とし込まれていくのでしょうか。」―

先ほど申し上げたようにコーチや選手には、どのようになりたいかという様々な理想があります。それを出来る限り具体的に理解するようにします。どのように泳ぎ、動きたいのか。どこが心地悪いと感じるのか。感覚での話し合いが多いので、それを正しく理解出来ず、伝え方を間違ってしまえば、開発の方向性も間違ってしまいます。 その声を理解して、開発担当へと伝え、その声を元に開発を行います。
その開発の声ももちろん大事です。これから開発してそこを実現出来るのか、その声にどこまで応えられるのかというところです。
その為に、糸の種類、おり方、基礎研究をし、多くのサンプルを作って行きます。
そのサンプルを元にラボ(研究所)レベルで抵抗値が下がった、伸縮性があがったというデータを取り、そこで理想的な生地を元に水着を試作し、選手への聞き取りを何度も行っていきます。
素材が変わる。そして縫製技術も変わる。
選手にとって最高の一着を目指す為に、選手に「ミズノがまた面白いことやってきたな。」と思って貰えるように、全員が向き合っていきます。

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ミズノの選手情報には世界クラスの選手や監督が連ねられる
(ミズノホームページより)

0からスタートし、選ばれる競泳水着へと

―「レーザー・レーサーが登場した以降は水着の開発が大きく変わったと言われています。ミズノさんの高速水着開発について教えて下さい。」―

そうですね、例えばミズノが発売した初期の頃のRX。当時としては競泳水着の中で非常に硬い水着と言われていました。
あのRXは、たった一人の男を「自由形短距離種目で世界一を目指そう。」という思いからチーム一丸になって開発しました。
当時は、今のような伸縮性のある生地が当たり前だった時代に突然、布帛という素材がやってきました。
自分たちはその素材を研究し、知る事から始めなければなりません。
生地の変化もそうですが、それに合わせるレーザー圧着の技術も0からの模索が必要です。
雨合羽にはレーザーで圧着する技術はありましたが、高速水着のように着用する際に物凄く高いテンションがかかっても破断しない技術となると別物です。

―「そういえば、高速水着時代になってからRXはかなり早い段階で登場しましたね。他社よりも強いコンプレッションでも着用できる耐久性は凄いです。0から開発したと考えると、かなり驚異的な開発速度です。」―

そうですね。ただ、残念ながらあの水着はおっしゃられる通り、非常に硬い水着でした。その結果、着たいのにキツくて着用出来ないという選手を増やしてしまった事が反省点でした。
その反省点を元にGX SONICのシリーズへと開発が受け継がれていきます。

―「GX SONICといえば、当時としては高速水着に複数のコンプレッション性を設けるのは斬新でした。当初は私たち販売店としてもどれをオススメしていいのか迷ってしまいましたが、ふたを開けてみたらGXを選ぶ選手が多く、あれが選手にとって最高の提案という結果として業界に受け入れられました。」-

そうですね。選手にはそれぞれの体格の選手がいて、求める泳ぎが違えば求める水着も変わってきます。初代GX SONICは3つのコンプレッションで分けていました。その後もいろいろな声を聞いて開発を進めた結果コンプレッションは2種類が最適だという事でSTとMRというように分けています。

ミズノが水泳選手に届けたい価値としてフラットスイム理論があります。
・体幹ホールド
・下半身の浮き
・アップキックのサポート

このような事を実現する事が選手にとって非常に良い結果をもたらしてくれます。
でも、開発するうえで販売する金額も大事です。どれだけ速くても、どれだけ有名選手が着用していても、金額が例えば20万円もするとなると、それは開発するわけにはいきません。憧れの選手が着用している高速水着を、学生やマスターズスイマーの手にも届くようにしたいのです。

―「選手、開発、お客さま、様々な視点を大事にされるその姿勢は凄いです。」―

注目度の高いmizuno GX SONIC 3 シリーズ

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ST(SPRINTER MODEL)
強いコンプレッション
体格がしっかりと出来ており、パワータイプのスイマーに適した競泳水着
MR(MULTI RACER MODEL)
ソフトでしなやかに伸びるコンプレッション
テクニックタイプのスイマーに適した競泳水着
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ゴーグル
開発コンセプトは初速マックス。
流水抵抗の低減と言った機能面はもちろんのこと、選手のモチベーションが上がるようなフォルムも大事。選手が“欲しい”と思って貰える物を作りたいという思いから開発されています。
キャップ
ただの立体ではない。上から見て楕円形状にすることで、頭へのフィット感を高めた立体成型シリコンキャップ。細部に至るまでこだわりが感じられる。ミズノさんはマイナーチェンジと言っていましたが、それでも改善の強い意志を感じるキャップです。

更に突き詰めるユーザー目線

―「最後に、吉井さんから小売店や、選手に求める事は何でしょうか?」-

ダメなフィードバック(意見)を下さい。
褒められるのはうれしいことではありますが、水着について褒めて貰わなくてもいいのです。自分たちは水着を開発し、選手に実績を出して貰えればそれが最高の結果です。ダメな意見は細かい事でいい。何でもいいからみなさんが思った事を知りたいのです。布帛の競泳水着を求めている人がなぜそれを求めているのか。もし布帛の競泳水着が合っていないと思ったらニットというのも正しい選択肢だと思うのです。
流行りだけではない、特徴があるから違っていい。選手には色んなタイプがいます。スイマーの皆さんには本当に求めているものを見つけて欲しい。 そういう意味で自分たちミズノが現在、最高の物を届けられているとはまだ思っていません。本当にスイマーに届けたい物はまだあると思っています。だからこそ流行りではなく、自分に本当に合ったものを見つけて欲しいのです。


ー「ミズノさんの水着は常にスイマー、選手、着用する方とともにあることがよくわかり、とても楽しい話でした。ありがとうございました。」ー

最後に…(MIHOROあとがき)

ー 私は最後の一言にとにかく強く惹かれました。

「流行りではなく、自分に本当に合ったものを見つけて欲しい。 」

スイマーの事、水泳をする子どもたちに向き合っていないと、中々ここまでの事はできません。

高速競泳水着の中で後発組でありながら2014年、2015年と圧倒的シェアを誇るまでに高速競泳水着で選ばれるようになったミズノブランド。

そこに一切の驕(おご)りは無く、スイマーの為に更に進化させようとする姿勢を感じずにいられません。

これは競泳水着だけではありませんが、日本のひたむきなものづくりの意思とは魅力的だと思う取材でした。ー

Upload 2016.1.7
MIHORO 取材:今村裕司

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